「で、三日で銀細工師と。」
実に呆れた口調で、この五十男は言い捨てた。
中級職でも式は行われたが、この時は若い神官がぎこちなく済ませた。
転職は人生其の物との契約であるが、其れは同時に生まれ変わり、
即ち「誕生」を意味し、最上級職ならば職人としての「成人」を意味する。
その間の中級職は「成長」を意味し、その為に同じく成長途上の若い神官が充てがわれる。
彼らへの教育という名目もあろうが、意味合いが有れば正しく感じるのが文化というものなのだろう。
然し「成人」を取り次ぐのがこの男である。果たしてこれは適材なのだろうかと常々思う。
「アンタにしちゃ時間が掛かった方なんだろうが、それに関わった死屍累々を見てんのか?」
「儂は国の定めた法に則って事を進めたに過ぎん。」
「違えーよ。人としての話をしてんだよ。このタコ坊主!」
「はっ。五十過ぎて未だ生臭気取りのクズが人の道を語りおるわ。仕えられた神も不幸な事よの。」
「はー?使える髪がねえのはオメーの方だろうが。」
「儂の歳で今更髪も無かろう?何なら七十、心に従うまでよ。」
「あのな。アンタにゃ矩を踰えずってのがまず無えから。
心に従って迷惑起こす老人どもと右に同じだから。つか、そのものだな。
誰も得しねんだよ。得無しは徳無し、資格が無え。何より俺が認めねえ!」
「ほう。帝国から遠く離れた国の古典じゃが、伊達に勉強だけはしておらんな。」
「こういう使い方するとは思っても無かったけどな。無念でならねえ。だが聖コンフシウスは有名だ。
まーアレよ。ジジイみたく、学の「が」の字も触れる前からドロップアウトな人種には、無用な概念ってこった。」
「教養以前、栄養も足りておらんかったしの。」
「その結果が、このクソめでたい不気味な小坊主か。」
「概ねな。人を切るより他は知らん。」
「いや、それは良いんだよ。人それぞれだ。だが迷惑を振りまくなと言ってんだ、分かるマスカ?オジーチャン!」
「ぬ?分からぬ?」
「あー!なんでコイツら人間越えたネームドどもは話が通じねんだ。
人の話を聞きゃしねぇ。なまじ、力だけはあるからクソ厄介だな。
ヘドが出そうだ。社会のゴミっつてんだよジイさんよお。」
「ふは。大体、戦闘職何ぞ多かれ少なかれ利己主義の上にしか成り立つまい。
他を排するのが闘争の本質よ。・・・それに、まあ。何じゃ。
芸人系は全職業の中でも、一、二を争う戦闘に向かぬ職。そう書かれておる。」
「したり顔で言ってんなよ。アンタのはハンデになってねーからな?」
「まったく、最近の若造はものを知らん。」
「有らん限りの神のご加護を、だクソッタレ!マジで天罰落ちねえかな。」
「落ちても儂だけという事はあるまい。貴様は死にそうじゃ。」
「俺は召されるが、ジジイは願い下げ食らってんだよ!」
「お静かに!」
ピシャリと走った鋭い声に、二人は声を噤んだ。
振り返ると、姿も見ぬ間に強く戸が閉じる音が、この一瞬で静まった部屋に響いた。
隣室の神官が、我慢ならぬと注意に来たのである。
「ほれ。後でお主は説教じゃな。良い歳で恥を知るがよい。」
「るせぇ。恥を知れねえヤツは恥知らずってんだよ。・・おう、時間だ。じゃあな、ジジイ。」
輪廻を経て徳を積むという教えがある。
其れに反して、己が積んだ到底徳とは言えぬ物がある。
積もれば山。果たして己の山とは何なのか。
燭台の灯が、纏わり付く暗い影をより濃く映した。
・・・・・・
本編のコメント用は足が早いので文章の校正をあまりしないのですが、
ブログ用は弄っても他の人のコメントを邪魔したりしないので、
手を入れたり削ったりしています。
玄斎は歳の分だけ情報を具体処理する能力が発達していますが、
勉学(情報及びデータ)を学んだ口では無いので、インテリの前ではアホの子(?)同然です。
聖コンフシウスはそのまま孔子の事。REDがどの辺りの時代をモデルとしているのかまでは知りませんが、パーカッション式銃もある辺り、近世程度の技術力なのかしら。
となると、清とキリスト教よろしく交易もそれなりに発達している筈なので、
多分孔子的な人も神官は知っているだろうという事でこのような話の流れになりました。
中世風味なREDの世界でも、どうやら情報格差があるようです。
史上の人物をゲームの世界に持ち込むのはアレな感じもしますが、
それでもやはり名言は名言。孔先生はやっぱり偉大なのです。
COMMENT