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年年歳歳花相似歳歳年年人不同
 
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魔導学院は帝国最古の国立学府である。
設置は400年ほど前とされるが、詳しい年代は不明。
原型は暗黒時代の魔術師ギルドと目されており、
鶺鴒の森近くの梟の館※1であるとされている。

220年前に帝都クロスデンに移設された後、国が所有権を買い上げ
現在に至る学術機関となった。王侯貴族の子弟も通う名実共に
エリート校であるが、ギルドをルーツに持つためか、実学主義であり
思想文化はリベラル。教育機関としては放任主義の傾向、
また一部の学部は冒険者や国外からの来訪者に解放しており、
文化交流、技術交流など一教育機関としての範疇を超えた現代のアゴラである。



言語の問題で帝都内を暫し彷徨した老人が、図書館の司書に案内された
初めての場所もこの魔導学院である。案内した彼女としては、術体系の
異なる呪術的験力や陰陽道を理解され得る場所が思い当たる限り此処であり、
老人が技術交流と帝語の獲得を経て、彼女の好奇心を満たす知を齎す事を
幾分期待していたのだが、当の老人が抜きん出た戦馬鹿という事が枷となり
その目論見は未だ達成されずにいることを老人は知らない。

さて、老人が魔導を習うにあたり、研究者でもある数人の教導術士に
験力のデモンストレーションを行なった。
マナの消費無しに発現する超常の力は、最初驚きを持って迎えられた
のであるが、詳しい検査の結果、それは超常の力では無く、
険しい修行の果てに手にした単なる馬鹿力であることが発覚する。
最終的に神奈備の力、依り代の概念が付与魔術に近いということで、
エンチャンターであるクバ・ベクシンスキーが老人の教鞭を取る事になった。
老人よりさらに4歳年上の老教員は、名家出身らしい物腰と礼節と兼ねた教養人
であったが、嘗て帝国軍で鳴らした超実践派でも知られており、
苛烈な指導姿勢ゆえに彼の教室の卒業率は僅かに16%。
これをイルーエン山脈冬季単独縦断の生存率に擬え、彼の学徒には
アルピニスト※2の渾名が付けられた。
 

「ほお。君がここを訪ねてくるとは珍しい。冒険者とはいえ英雄を冠した者が訪
 れるのは実に鼻が高いところではあるな。賞金首でなければ尚良かったが。」
「相変わらず嫌味な男じゃ、貴様は人間力学を学ぶ事を覚えた方が良いの」
「甘いだけでは生き残れんよ。君には深く理解して貰えているものと思ったが」
「滝行やら10日の断食やら、4日4晩プロテクションを練り続ける苦行に何の
 意味がある?大阿闍梨の輩出でも狙っておるのか?」
「意味?未だにそのレベルなのかね君は?健全な肉体には健全な魂が宿る。
 鋼の精神には鋼の肉体。私が教える以上、超人になって貰わねば。」
「貴様の教え子らが閑職に追いやられておらねば、多少納得もしようがの。」
「閑職?ふん。我が弟子を軍学校を出ただけの水っぽいクソどもと同じにされて
 は困る。己が上に立つならば範を示さねばならぬ。超人の背を見せ、鼓舞する
 者足らねばならぬ。例え他がそびえ立つクソの群れだったとしてもだ。」
「上に立てねば、それも意味があるまい」
「強く生きることは他者に輝きを与えることだ。肩書きや実利が全てじゃあない」
「かくて理想と現実は乖離していく訳か。」
「ハハハ!それはどんな人間だって同じだろう?夢想家は要らん、
 私がプロデュースするのは、己の理想を現実に変える真の理想家だ。」
「下らん。そうした結果がこの有様か。」

ひび割れた床と壁に囲まれた寒々とした執務室は、時々隙間風さえ吹いた。
それが日に焼けた本棚に並んだ背表紙の弱った本から溢れた頁に当たり、
そよぐように揺れた。だが何と言っても、この貧相な部屋を一層惨めなもの
たらしめているのは、無遠慮に置かれた花瓶に挿さった萎れた花に違いない。

「ワハハ!手厳しい。だが君もその内の一人であることは自覚してもらう。
 理想家の資質は冷徹なリアリストであり豪腕のエゴイストだ。全くピッタリだ。」
「下らん。弟子にでも刺されてしまえ。」
「彼らが童貞を捨てる通過儀礼として、そう判断したのなら私は一向に構わん。
 が、忍耐力と精神力に鍛えているからこそ、その可能性は随分低いな。」
「随分楽観視しておるな。」
「よく考えたまえ。今の私なんぞ刺してどうなる?何にもならん。
 人生に対する復讐?下らん。第一その程度の虚弱な精神性の奴など瞬殺だ。」
「ふは。老いぼれの貴様に敗れるとさらに味噌も付くか。酷い話じゃ。」
「そう。そう言う意味では、若い有望な冒険者に味噌を付けまくる君は、
 真(まこと)のクソジジイと言える。」
「なんせ稼業じゃからの。」
「ふむ。それもそうか?だが、そろそろ引退して私と後進の育成をしないか?」
「弟子は取らん。」
「誘っておいてだが、君は教えるのに向いてないからな。先ず説明が下手だ。」
「自覚はあるぞ?貴様と違ってな。」
「あー、いや。これは嫌味ではなく、無念を言っている。」
「なんじゃと?」
「君を弟として言うが、それだけの技術を後世に伝えずにどうする。
 抱えて死ぬのか?馬鹿馬鹿しい。人類と帝国の進歩に貢献したまえ。
 いい加減、いい歳こいて蛮勇を振るうみっともなさを自覚する時だ。」
「余計な世話じゃ。」
「ふふん。出来の悪い弟だからこそ言っている。」
「待て、いつから貴様は儂の兄になったのじゃ?」
「全ての教え子は、我が子として教えているが、
 君の場合は。。まあ、私と大して歳に差がないからな。」
「知ったことか。」
「全く懐かぬ奴だな君は。それがまた良い。で、一体何をしに来たのだね」
「話の長い男じゃ。世界樹の葉の研究をしている者を紹介して貰いたい。」
「ほう。また漫ろ悪巧みかね?」
「概ねな。」
「しても構わんよ。だが紹介料を貰いたい。」
「貴様が見返りを望むとは珍しいの。」
「学生ならば授業料を貰えるが、君からは取れんからな。」
「ほん。まあよい、申してみよ。」
「私の立場では難がある品だ。近くへ」
「何じゃ?」
「アヘンを用意して貰いたい。」
「阿片か。それは高く付くぞ。」
「最近金持ちの間では流行りでね。外出に変わる娯楽という訳だ
 今度の事件で価格は暴騰、今や医療用も調達が困難だ。」
「その心は?」
「恐怖の鈍麻に軍部はご執心でね。私も頼まれ事なのさ。」
「麻ならば幻術にも使い様があるが、阿片なんぞ戦では役に立たんぞ。」
「そう。だから対照実験に使うものだ。」
「ふむ。対は興奮系か。」
「これも内密に願うが、死女王島で新種の植物が発見されてね。
 君は蛮族と戦ったこともあろうし、知っているのではないか?」
「恐れ知らずのタワケ共としか覚えておらん。」
「そう。彼らは恐れ知らず。彼らは死を恐れない。その素だよ。」
「儂としては其方に興味があるが」
「精神が枯れている君には大して役には立たんだろう」
「まあ、良かろう。闇の商人に当たってみるか。」
「素晴らしい。やはり持つべきは優秀な弟子だ。」
「実学主義も過ぎれば道を踏み外すか。」
「だから部下や弟子は見捨てんのだよ。恐ろしい人の心を放置せぬためにな。」
「く。御託ばかり並べおって。」
「では頼んだ。さて、私はこれから講義がないからなんと暇だ。
 今日は妻とのデートも、買い出しの頼まれごともない。」
「?」
「久しぶりの再会を祝して一戦どうかね?」
「どうもうこうも、貴様では相手にもならん。瞬殺がオチじゃ。」
「いい返事だ。では表に出たまえ。目にもの見せてやろう。」
「貴様も変わらんのう。」


※1 現存しない。遺構はバファル湖ほとりに存在し、
  卒業生の寄付により、石碑が設けられている。
  プレクスター中心部から馬車で50分。

※2 一般に付与魔術師の地位は術師の中で最下位に属し、
  卒業生の多くが文官や研究職に進む魔導学園にあって、
  ほぼ軍部にしか席がない状態である。また、軍学校は
  別に存在し、生え抜きの派閥が主流であるため
  閑職に追い遣られる者が殆ど。その精強さと、
  その労苦に見合わない物好きさを揶揄している。
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