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「..皆これから死ぬ人といえばそうなんだけど。」

女は、どうにもならならない困り事に溜息をするように、
短く言葉を切り、旅立って行った。今度は北方に行くらしい。
気侭に世界を歩き回る様は、猫の様だと老人は思う。


晩の光景を朧に浮かべ、闇黒を進む。
この地下へと続く積層は、嘗てある貴族の趣味の場に過ぎなかった。
彼の者が老い偏執に狂うようになると、その狂気は滓のように沈殿し、場に変質を齎した。
今や此処は、湿気と黴と錆の臭気に満ち、清浄の火すら幽鬼を誘う汚れた迷宮である。

「今日は遊んで行かないの?」

地の底で、鈴の音の声が響く。
この世の者とは思えぬ美貌に、
白磁の肌は、無機質に灯を冷たく映し、
誘うような甘い笑みを浮かべた唇は、紅く燃えている。

その笑みの底に嗅ぎ取ったのは憫笑。
人有らざる者が、斯様な感情を持つのかは分からぬ。
だが敢えて解すならば、遥か高みゆえの、傲慢の笑みであろう。

「なれば、また素っ首叩き落としてやらぬでも無い。」
「あは。その気があるのなら、好きにしてくれていいのに。」
「それが貴様の売り文句か。賊退治が趣味でも無かろう、目的は何じゃ?」

「この世界を人形劇の箱庭とすると」

少女は笑みを浮かべたまま、壁に身を預けた。

「私たちは、自分の人形を箱庭に潜り込ませた。
 キミたちから見て、その遊び方が偏って見えるだけの話さ。」

「ほう。」
「答えてあげたのに、大層な反応だね。」
「役の違い。単純な話じゃろう。」

壁に寄り掛かり、後手の細い指が壁を愛撫している。
甘美な笑みを浮かべたまま、此方をじっと伺っている。

「く。襲い来れぬが貴様の役じゃ。四本角に寝過ぎと伝えておけ。」
「ふふ。」

悪魔は何の感情も表さぬ笑みのまま、
赤暗い灯を燈す燭台の影に溶け込んで行った。
灯が油を吸う音が、僅か聞こえる。


「..でも爺様は、これから死ぬ人のニオイがするわ。」

死とは、漫然とやがて突然にやってくる。
ふと思い出された女の言に、宛て無き返事をするでも無く、
老人は静かに、深く冷たい螺旋へと姿を消した。



・・・・

PCから見ると、悪魔とメタである中の人の立ち位置は、
チャンネルが異なるだけで殆ど同じという話。
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