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鶏の油脂を帯びた蒸気が厨房から食堂へ流れ込む。農村の朝は早い。
口に含むと溶ける程に野菜が煮込まれた汁に、硬い麵麭を浸して食む。
此処で食事をする者は冒険者の他、軍部の人間と思しき者も数名見られる。

「お。爺さんか。席いいか?」

4人の男どもは返事を待たず、木製の食器を乱暴に置くと、
囲む様に卓に腰掛けた。筋肉に覆われた男らを乗せた長椅子が撓む。

「景気はどうだい。また賞金が乗ってきたみたいだな。」
「貴様らの寂しい景気の為に、狙ってみるか?首?」

下品な笑い声がどっと沸く。隣の男などは、
口の中の汁物を、盛大に卓へと撒き散らかした。

「そこまで言ってねーよ。相変わらずイカれたジジイだな。」
「こちとら賞金掛かってんだ、返り討ちで懲罰房行きは御免だぜ。」
「こういうキレる老人って増えたよなー。社会問題が今ここに!」
「実録!血染めの老人介護!」
「アホか、社会道義に反するわ。」

「貴様らの縄張りは中北部、砦の辺りじゃろう。随分南まで出張ったの。」
「ホットな飯場に馳せ参じるのがクールな傭兵ってもんだが、今回は要請があってな。」
「ま、半死半生で駆けずり回る俺らなんぞ、クール通り越してグールみてえなもんだが。」
「ほう?傭兵を抱えるのは、地方貴族か豪商ぐらいと思うておったが。」
「戦争も多角化の時代さ。全く、戦場と取り巻く状況ってのは凄え速さで変わって行きやがる。」
「最近じゃ魔導師団より鉄砲隊なんて聞くしな。10年後に戦場に派遣されてるのはゴーレムかも知れんぜ。」
「そうなりゃ俺ら、お払い箱か。」
「ブタ箱じゃろうな。」
「ざけんな!先にジジイは棺箱だろうが!」

「つかさ。もうさ。お爺がウチに入ればよくね?」
「お前なあ。サラッと言うなよ。」
「実録!血染めの老人伝説!」
「そりゃまんまだな。」
「つかお前、なんだ?ツボか?マイブームなのか?」

「誰が餓鬼の駄賃で働くか。阿保どもめ。」
「だろうなあ。ま。最初から無理筋とは思ってたよ。」
「諦めんの早っ?!願えば叶う!無理も通せば筋になる!・・俺の人生訓だ。」
「左様。通す腕力があればの」
「言うねー。」
「いいじゃねーか。行き掛けの駄賃と思ってよ。」
「それなら1オロボスで十分だな。」


傷だらけの顔に渋い笑みを浮かべ、男は椅子から立ち上がった。
他の男たちはそれに視線を投げると、そぞろと立ち上がり卓を後にしていく。

「また顔合わせる事も有るだろうからよ、その時は頼むぜー。」

山は平らげられ、川は枯れ、また河は掘られた。
国敗れて山河あり、その言葉すら、古い時代の物に成りつつあるのか。
世はただ訥々と流れ、変容を続ける。

「・・それにしても。」
散らかった卓に一瞥を呉れると、思わず溜息が漏れた。
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