叩き伏せた鉄仮面の下は、まだ幼さの残る貌で、
滴る鮮血と青痣により、その顔色は曖昧であったが、
澄んだ瞳に宿る確かな憎悪の炎は、その身を焦がさんばかりに震わせていた。
乾いた大地、乾いた空。
吹き荒ぶ風が青年の甲冑に砂を打ち付ける。
やがて引き取りに来たのは帝国紋の男たち。
異国語で何やら唸るこの青年を殴りつけ、乱暴に馬車に放り込むと、
500Gの寸志を此方に寄越し、去って行った。
アルキルッシュ国境の僅かに南。イーグル砦は国防拠点の最前線である。
財団の潤沢な資金を背景に、プレクスターから齎される豊富な武器。
此の圧倒的武力は、隣国を睥睨せしめるメデューサの如きであった。
戦争とは死と金の匂いのする場所である。
メデューサを統べるベクターナという男に商才があった事もあり、
砦は、何処とも知れず湧き集る禿鷹か蛆虫の様な人種に溢れていた。
栄光の国の盾。その裏は、この世の掃き溜めその物であったが、
彼の地を統べる者が、その作法を熟知していた事もあり、
掃き溜めの住人が、労働と対価を得、構造上は人並みと言える社会を築いていた。
労働とは即ち、人狩り。
捕虜となりし青年の行く末は知らず。
拷問と尋問の末に殺される事もあろうが、
騎士とはいえ、前線に放り込まれる様を見るに末端の人員であろう。
どの道、大した情報は持ってはいない事は確かである。
なれば商人でもある将軍が、此れを打ち棄てるとは到底考えられない。
恐らく、砦の補強や造成などの強制労働に組み込むのであろう。
熱砂の陽炎に揺れる黒い要塞。其れは大量の人柱を基礎に膨張を続ける人の業。
白んだ青空は虚ろで、太陽は刺す様に地に照り付ける。
その間を、一羽の鷹が弧を描き飛んでいる。
感傷は無い。老人は小銭の入った麻袋の軽さだけを握りしめた。
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