「あっそ。また剣聖ね。興味ねーわ。認可認可。
経歴追加の手続きしてやるから、そこ座ってな・・
どら・・お あ”あ”あ”！何じゃこりゃ！！」
神官の男は、付箋の貼られた住民台帳を開くと同時に慟哭に近い絶叫を上げた。
そして、まるで安楽椅子に腰掛けるように、乱暴かつ力なく椅子に身を預けると
角張った樫の執務椅子は、後ろに傾き重く硬質な音を立てて床に収まった。
「デタラメな経歴しやがって！頭イってると髪から無くなんだな！」
羊皮紙の上で流麗に舞う白い羽ペンの上で、
男は呪怨に塗れたドブの様な恨み節を吐きつける。
「ははん。台帳作成は特権であろう？遺憾なく存分に振るうがよい。」
「ケッ、アホくさっ。しかし、なんだコレ。目が滑ってマジで頭に入んねえ。
・・おん？・・ぶはは！森のミストレイターって何だよ！？
森のヤドリギ（mistletoe）ってか！」
「アシャーですら知らんと言っておる。儂が知るか。」
「んっんー。セルガーンのMistratorなら帝語でミストラル。
北の山脈から吹き降ろした季節風を指すが、語源は「見事な」だったな。
…見事な森。ウハハハ！ダセエ。超ダセェ。アンタ立派な森ジイだよ。
絶滅した森ガールの次は、森ジイってか。世も末だな。ハハハハ！」
「ぬ？」
「あ、悪りぃ。んな事言っても化石の様な御仁には分からんわな。
なんせ恐竜の骨で殴り合ってても違和感ねージジイだ。
アンタにとっちゃ、時代の流れ、これ即ちクソ喰らえだろ？」
「舐めるな小僧。時代の流れ以前、貴様の話にもついてゆけぬわ。」
「はー、泣かせるねぇ？ま。コレにしたって経歴にしたって、
ただ書き連ねるなんざ、お役所仕事ってのはつくづくセンスねえやな。
蛮族未満の知能指数が成せる業だぜ。」
「左様。カニミソ並みの貴様には誂え向きの知的作業じゃ。」
「ざっけんなボケ！ああ、胃の辺りがムカついて来たぜ。
大体な。アンタの経歴なんて【クソジジイ・・1回 おわり。】十分だろ。」
「あーあー。左様じゃな。源泉掛け流しの罵詈雑言が、
息の根から絶えてくれるならば結構な話じゃ。」
「・・・おお、神よ・・・
この愚かで迷えるジャック・オー・ジィタンに罰をお与え下さい。
【死亡】の2文字で事は済むのです。世界は平和に。ああガッデム！」
「執務中に祈祷じゃと？遂に耄碌しおったか。」
「モウロクはテメーだオイボレめ。順番守れ！
俺はなぁ、世界を股に掛けた徘徊老人の有害性と救済について祈ってんだ！」
「ほう？・・わぁるどわいど。じゃな？」
「あー、ムカつくねぇ。したり顔で言ってんな！
何処でそんな言葉覚えたんだよ？！」
「知るか。酒場が何処かじゃろ。」
「ははは。人殺しの癖に記憶力が弱いってのは、
アンタみてーな人種には最高に好都合だよなあ。ええ？」
「ほう？では普通はなんじゃ。悔い改めて神とやらに縋るのか？」
「ハッハー！だからその感覚が分かんねえって言ってんだよ。
やっぱ狂ってんな、バトルジャンキーどもは。」
「遍く人の世は狂気の沙汰。多かれ少なかれ人など狂っておる。」
「自分を一般化して物を語るのは愚物のレトリックだな。
大体、地獄の一丁目に住んでそうな奴が、妙な珍説ブチ上げてんじゃねーよ。
1リーグ譲っても、共感性が無いと通用しねーからな？」
「貴様が譲歩とは、殊勝ではないか。
・・・共感。情緒と合理、道義と法の距離は知らぬ。
知らぬが、この場においてただ一つ。真理と言えるものはあろう。」
「なんだよ？」
「貴様が雑談に逃げず、社会的責務を果たす事じゃ。さっさと書けい。」
「クッソ！もう無理。限界だ。爪先から頭の芯までムカつきが詰まって、
ドタマがぶっ壊れそうだ。煙草吸いてぇ！酒も飲みてぇ！
なんならメシ食ってもう寝てぇ！」
「泣き言を漏らしておる場合か。後がつかえておる。」
「ぐおおお！神よ！！」
「神とやらは貴様に甘過ぎるの。このポンコツめ。」
・・・・・・・・・・・
やっぱり長くは持たなかった銀細工師。
剣聖はやっていると印象が薄い職業ですが、
離れてみると癖になっている妙な職です。
さて、今回扱ったのは謎のミストレイター問題。
確か、元々存在したかっこよさ＋という無意味な特殊効果について、
玄斎がアシャーさんに言及して出来上がったのが、この謎の肩書きですが、
多分語感を優先した為か、アシャーさんですら意味を知らないという。
和製英語というかパ製帝語な成り立ちをRED的にどう解釈するのか？
という人形芝居を行なってみましたが。言葉のキャッチボールすら儘ならず。
ポンコツ二人が言葉のデッドボールを繰り広げる悲惨な結果に終わりました。
恐らく「〜する人（物）」を意図したものだとは薄っすら理解できます。
冷蔵庫は「refrigerate+or」シュワちゃんは「Terminate＋or」という感じ。
ただこの-or（er)は言葉の変化による物で、or自体に特に意味はありません。
動詞変化に付く-er、ギリシャ語源に比較的付く-ist、名詞を形容詞に変える-an
具体的な意味は無いけど、なんとなくそういう変化に用いられるヤツらですが、
個人的に「かっこ良さ」にフォーカスするならRaiderの方がしっくりくる感じ。
霧の強襲者なんて良さげチックです。まあ真実は藪の中。五里霧中の彼方です。
ＣＯＭＭＥＮＴ
