曇り空を見上げる。
何度目の景色かは分からない。
ただ、何色でもない気分で空を見上げている。
傭兵稼業を始めて20年を越えた。嘗て頼もしさすら感じていた装備の重みが鬱陶しくてたまらない。衰えを感じる。錆臭いチェインメイルの匂いが鼻腔を突く。
仕事の時間だ。
男は無精髭を掻き、酒場へと向かった。
流れる人人人。ある詩人は謡った「世界は素晴らしい」と。
昨日と今日とは異なるが、この光景が昨日とどう違うのか。
掻き分ける程の人波は、旧市街に入るとやがて引き、
遠くで馬車がカタコト鳴る音と、砂利の混じった足音だけが響く。
やがてうらぶれた酒場に辿り着き、一つ溜息をついた。
店は既に半壊の趣で、始めて入る者も、慣れた者も皆一様に、
店内の饐えたゴミ溜めのような匂いに眉を顰めるのが通過儀礼となっている。
ここは不潔な老人が営む(?)古い店で、安酒しか置いていない。
いや、不味くとも酒ならまだ良いが、たまに酒とも思われぬ得体の知れぬ飲料が出てくる。椅子などはてんでどれもバラバラで、聞くと冒険者の店が払い下げにした物品を格安で買い取り仕入れているのだという。
今日の依頼主は聞くまでもなかった。
汚い店の隅で、ローブを被った女が息を潜めるよう此方を伺っている。
注文した飲み物には口を付けていないようだ。
「アンタが依頼人か。早速で済まんが、仕事の話をしようか。」
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