竜頭の口蓋が、引き裂かれんばかりに開かれる。
松明の火に照らされて、穢らわしい黄色い歯と赤黒い肉が薄暗く覗け、
暗澹を湛えた喉奥が、その吐息が炎で無い兆候を知らせていた。
先月も総勢7人から成る混成パーティーが壊滅した。
2名は呼吸困難で即死、3名は高熱と下痢で2日後に死亡。
1名は高熱と体表の異様な潰瘍に苛まれつつも2週間弱で寛解。
もう1名も、腹痛と腹水、激しい下痢の症状に苛まれるも1週間で寛解した。
原因は、遺跡という狭く半密閉の空間で、瘴気の吐息を浴びた所為。
人類に仇為す尖兵、疫病のドゥームザッヘルは他の魔神と異なり、
広範に及ぶ特化攻性を持ち、一対多で脅威度がより増す。
幸い病的作用は、瘴気の放出から極単時間で体内に取り込まれた場合のみ発現し、5分を越えての空気感染、また感染者を媒介としたキャリア感染は例は未だ記録にない。
男はポケットに忍ばせた乾燥した葉を噛むと、猛然と剣を振り被り竜頭に叩き落とした。頭蓋を砕かれ、肉と眼球を溢した魔物は咆哮とも絶叫ともつかぬ声をあげ怒りに満ちた血走る眼差しを男に向けた。
同時に男は、己の渾身打の踏み込みが浅かった事に気がついたが、
元より攻撃の手を緩める気は無く、返す刀で更に踏み込み、
首元を撥ねに掛かった、否、跳ね切らず骨で刃が止まったが、
そのまま壁に押し付け、梃子のまま捩じ切った。
タールの様な粘着質の体液を散らし、魔神の屍は溶解と蒸発を始めている。
魔神の類は、許容量を超えたダメージを受けると活動限界を迎え自壊を始める。
これは魔素により構成原素を繋ぎ止め受肉しているためで、ダメージにより肉体の保持制御統制が失われる為だとされている。
独特の臭気を放つ黒い水溜りに、薄い火を湛えた小石程度の硝子玉を見つけた。
男は硝子玉を掬いポケットに仕舞いその場に座り込んだ。
構内を吹き抜ける風、新鮮な空気を感じる。
男は、酒の前にまず水だなとぼんやり考え、程なくその場を後にした。
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